金融自由化―3つの要点と美人投票の論理
以前はこんな記事を書きました。↓↓↓
EUの金融取引税について―国境を越える資金にどう課税するか(導入)~金融のグローバル化について~ - パンダのぼやき
“金融の自由化によって国際的な金融取引が飛躍的に伸び、金融危機が起こるようになってきた”というのが大まかな内容です。今回は金融の自由化の中身について見ていきます。
金融自由化の要点
金融自由化の要点は、以下の3つです。
1、 金利に対する規制を撤廃して市場の自由な決定に委ねること
⇒“規制金利システム”から“自由金利システムへ”の移行2、 銀行と証券の業態間の垣根をなくし、相互乗り入れを促進し、競争を促すこと
3、資本の国内外移動に対する規制を撤廃し、国際的な資本移動の自由化を促すこと
☆つまり、国内的な金融自由化(上記1、2)と対外的な金融自由化(上記3)の両輪で自由化が推進されたということです。
金融の自由化は好ましい結果をもたらす?
変動相場制への移行や金融の自由化は、従来の経済学では好意的に受け止められていました。つまり、金融の自由化は好ましい結果をもたらすと考えられていたのです。その代表的論者がフリードマンです。彼については↓↓↓
ミルトン・フリードマン―安倍政権とフリードマンは近いかも - パンダのぼやき
彼の主張はいわゆる「効率的市場仮説」をもとにしています。この仮説が正しいとすれば、バブルの発生、崩壊は起こりえません。
※効率的市場仮説
:為替レートはつねに速やかに変動して通貨に対する需給の不均衡を迅速に調整でき、また市場はつねに経済の基礎的条件(ファンダメンタルズ)を正確に反映している、という仮説
人間を“経済人”とみなす考え方と近いと思います。経済人とは、人間はすべての情報を把握し、完全に合理的に行動するというモデルのことです。詳しくは↓↓↓
しかしながら、実際問題として金融危機は発生しています。なぜでしょうか?
ケインズの「美人投票の論理」
この問題に関しては、ケインズの主張が興味深いです。ケインズは、金融市場が不安定性を高めた一要因は「所有と経営の分離」にあると主張しました。
これについてはまた別途まとめますが、要は19Cの会社像(所有者=経営者)から20Cの会社像(所有者≠経営者)になったということです。「所有と経営の分離」によって株式市場が大衆化したことで、素人投資家が大量に参加し、「群集心理」が市場価格に影響を与えるようになったというのです。
この「群集心理」が美人投票の論理と同じなのです。
美人投票の論理とは何か
…美人コンテストで誰が優勝するかを当てるゲームは、自分好みの女性に投票するよりも、他の参加者の好みを予測し、最大得票を獲得しそうな女性に投票するほうが勝利しやすいというもの。
☆つまり、職業的投資家(素人投資家以外)にとっての最適な行動は、もはや専門知識を生かした長期投資ではなく、群集心理を分析し、他人より素早く出し抜いて儲けること(短期投資)だということです。
更に、ケインズのもう一つの重要な議論は、「不確実性下での意思決定」です。現代の投資家は、きわめて不完全な情報のもとで意思決定をせざるを得ない状況です。先の不透明な状況では、リスクを回避するために長期投資よりも短期投資に振り向けようとするので、資金の流動性を高め、不安定性が増すという主張です。
じゃあどうするのか?
そこで出てくるのが“証券取引に対する課税”です。EUの金融取引税の起源をここに見いだせるのです。これについては改めて。
参考文献
・諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか』新潮社、2013年
私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)
- 作者: 諸富徹
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2013/05/24
- メディア: 単行本
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