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なぜ世界恐慌は起きたのか―世界恐慌から現代日本を捉え直してみる

政治・経済・社会・歴史


今回は世界恐慌の原因についてまとめたいと思います。この議論は現代と重ね合わせて考えることも可能なので、この時代を読み解くことも重要かと思います。

世界恐慌の発生


この原因として、2つの論点があります。

1、 独占・寡占化傾向…ミーンズ
2、 所得分配の不平等…ブルッキングス研究所


まずは1についてなのですが、ミーンズの主張を見る前に、彼(+バーリ)の有名な書籍『近代株式会社と私有財産のエッセンスから確認します。


「所有」と「経営」の分離とは何か


『近代株式会社と私有財産』の意義を大まかにみると、

1、 アメリカの産業用財産の大部分が少数の巨大企業の支配下にあること(独占・寡占)
2、 株式会社のあり方の変容


の2つが重要なのですが、とりわけ2の株式会社のあり方の変容が有名です。


先に結論から書くと、

19Cの会社像:所有者=経営者
20Cの会社像:所有者≠経営者



という風に変化しました。これを「所有」と「経営」の分離と呼びます。この背景にあるのが、企業の巨大化です。企業が大きくなるということは、経営内容が複雑化・高度化してくるということです。これが経営者委託(経営のプロに任せよう)につながります。また、企業の巨大化によって大量の資金も必要になってくるので、一般大衆にも株式を発行することで外部からお金を集めるようになります。つまり、お金を出す人(所有者)と経営する人(経営者)が分離しているということです。


このバーリとミーンズの見解は、これまでの会社に関する経済学者の考え方を覆すものでした。


世界恐慌の原因1:独占・寡占化傾向―ミーンズの見解


世界恐慌の原因に戻ります。


ミーンズの見解(前述共著の3年後、農務長官の経済アドバイザーとしての報告書)では、原因は市場の2極化にあると言います。

1、 独占・寡占企業による価格硬直的な市場
2、 農業のような無数の小規模市場参加者による価格柔軟な市場


1では、恐慌後の需要の急減に直面した独占・寡占企業は、利潤獲得のために生産を減らしつつ、価格は維持しました。この結果、生産を減らしたために失業者が増大したことに加え、原材料などに対する需要も減ったため、他産業の業績悪化にもつながりました。


他方の2では、誰も市場支配力を行使できない市場なので、需要の急減に応じて生産量を調整できません。したがって供給過剰に陥り、価格が暴落しました。これは貧しい農民層に大きな打撃を与え、彼らの消費減退につながり、不況につながりました。


以上のアンバランスが、世界恐慌の原因だとミーンズは分析しました。


世界恐慌の原因2:所得分配の不平等―ブルッキングス研究所


ブルッキングス研究所とは、今でもアメリカ有数の中道・リベラル系のシンクタンクとして知られています。同研究所の1934年の報告書によれば、世界恐慌の原因は、1920年代後半の好況に生産能力が追い付かなかったから生じたのではなく、むしろ次々と生み出される製品を消費する能力が不足していたことにあると分析しています。いわゆる「過少消費説」です。


1920年代後半のアメリカは、空前の好景気でした。技術革新や労働生産性の増加を背景として利潤や株価が上昇し、キャピタルゲイン(資産価値上昇による利益)によって、高所得者層の所得はかなり伸びていました。しかしながら、その恩恵が必ずしも中間層以下の人たちには還元されず、所得分配の不平等が拡大していた時代でもあったのです。


この過少消費という考え方は、ケインズにも見られます。それが有効需要の原理です。ケインズについては以下↓↓↓


ジョン・メイナード・ケインズ - パンダのぼやき


ニューディール政策への影響


以上のような分析は、ローズヴェルト政権にも大きな影響を与えるようになりました。つまり、独占・寡占を規制するだけでなく、所得分配の改善によって国民の需要を喚起することが不況の脱却につながると考えたのです。その象徴がニューディール政策でした。

現代日本を捉え直すと?


さて、ここまでの議論を踏まえて、アベノミクスの経済政策を考えてみましょう。アベノミクスの経済政策は、デフレ脱却を目的としていました。あの金融緩和は、おおざっぱに言ってしまえば、「供給側(企業)にお金を回して、そのお金で投資をしてもらいましょう。企業が投資をして売上が伸びれば労働者の給与も上がりますね。」という議論です。お金が回らないからデフレなのだ、という議論です。



しかしながら、現代日本を眺めると本当にそうなのでしょうか。ここ十数年の平均所得を見てみると、年々下がっています(図6-1参照)。つまり、デフレの原因は需要不足(世界恐慌時と同じように過少消費)だと言うこともできるのです。これが正しいとすれば、いくら企業が投資をしたところで(供給側を強化したところで)、問題は解消しないので、求められる政策としては、需要の喚起のための政策となりそうです。今のところ好調な雰囲気がありますが、アベノミクスの帰結は、最終的には世界恐慌時と同じように、中間層以下には還元しないような気がします。よく言われる「好景気が実感できない」という話ですね。




とはいえ、政府は現在、一生懸命賃上げ要請をしているみたいなので、これが実現するか否かがキーポイントになりそうな気がしています。国が賃上げ要請というのも変な話だと思いますが。




いずれにせよ、世界恐慌期と現代は構造的に似ている部分もありますので、このあたりを再検討することは面白いし、意味のあることだと思います。




参考文献
・諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか』新潮社、2013年


私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)