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フレキシキュリティ政策とは何か―解雇されても安心な社会システム


以前にこんな記事を書きました。


社会支出の比較―日本と北欧 - パンダのぼやき



主に社会支出(≒社会保障支出)について、日本と北欧を比較しながらまとめたものです。ポイントとしては、

・社会支出は日本より北欧のほうが大きい
・社会支出の内訳を見ると、日本は高齢者向け(医療・介護・年金など)に偏っている

が挙げられます。上記記事を見ていただければわかりますが、北欧は一般に言われている通り社会保障は充実しています。ここで重要なのは、社会保障を充実させながらも、財政状況もある程度健全であるということです*1。そしてこれを実現させる背景にあるものがフレキシキュリティ政策(主にデンマークスウェーデンの仕組み)であり、現役世代向け支出です。今回はこのフレキシキュリティ政策についてまとめます。

フレキシキュリティ政策とは何か


フレキシキュリティとは、フレキシビリティ(労働市場の柔軟性)とセキュリティ(生活の安全保障)を合わせた造語です。下図がフレキシキュリティ政策の概念図なのですが、まずはそれを見ていただいて、そこから1つひとつ説明を加えたいと思います。


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労働市場の流動化


まずは労働市場の流動化の流動化についてです。労働市場の流動化とは雇用の弾力性を高めること、もっと簡単に言ってしまえば、解雇を容易にするということです。日本において雇用を流動化する(解雇が容易になる)と言うと反発がすごいですが、北欧では解雇されても問題が起こらないように、下記のような手厚い失業給付が給付されます。


手厚い失業給付


その手厚い失業給付というのが以下。


北欧の失業給付 - パンダのぼやき



※久しぶりに上記記事を見てみたら見づらいですね…。時間があるときに表にでもします。



北欧諸国に関して大雑把に見れば、スウェーデンデンマークでは給付額が失業前所得の80%~90%、ノルウェーフィンランドでは約60%といったところです。給付期間は概ね2年です。



他方の日本はというと、給付額は前職賃金の50~80%、給付期間は通常6ヶ月、最大でも1年です。やはり北欧諸国の保障と比べると見劣りします。



しかし、こんなにも長いこと給付をもらっていたら働かなくてもいいのでは?と思われるかもしれません。ここで機能してくるのが、就職活動をしないことによる減額措置*2積極的労働市場政策(アクティベーション)と呼ばれるものです。

積極的労働市場政策


積極的労働市場政策とは、一言で言えば職業訓練のことです。失業者に対して再教育や再訓練を行うことによって、新しい就業を保障していくというものです。このように手厚い失業給付と積極的労働市場政策がバックにあるために、解雇されても労働者は基本的に困らないし、企業としても不況時には人員削減、好況時には増員というような柔軟な対応ができます。



ちなみに日本の傾向としては、歴史的に見ると不況時には人員削減ではなく、賃下げで対応してきました。この結果として起きたのが長年続いたデフレだと思います。この辺を話し始めると話が逸れるのでこれくらいにしておきます。

まとめ


雇用を保障しようと考えるのならば、日本では解雇しづらい仕組みにするというのが普通の考え方だと思います。日本において解雇規制の緩和というような議論になった場合に反発がすごいのは、この考え方に基づいているからだと思われます。



しかしながら北欧では、これまでにまとめたような仕組みで雇用保障を図っています。日本との比較で整理すると、

日本:基本的には解雇しないことで雇用保障を図る
北欧:解雇されたとしても手厚いセーフティーネットで雇用保障を図る


という違いがあります。この違いは結構重要で、日本の場合は終身雇用という言葉があることからもわかるように雇用の流動性が低いので、この状態は(現代では)経済的にあまりよろしくありません。逆に北欧は、雇用の流動性を高め、雇用と社会保障をうまく結合させて経済成長も実現していまして、仕組みとしてうまく回っています。



社会保障ばかりが強調されがちな北欧ですが、そこに雇用という分野を織り込んで考えることが、北欧の仕組みを理解する上で非常に重要です。最後に文章でフレキシキュリティ政策をまとめると、


経済成長のために労働市場を流動化しつつ、その流動化による労働者の失業という欠点を補うべく手厚い失業給付を整え、更にその給付に安住させないために減額措置と再教育や再訓練という積極的労働市場政策を整備することで、雇用と社会保障をうまく結合させた仕組みのこと

と言えそうです。



今回はこれくらいで。



参考文献・資料
・ケンジ・ステファン・スズキ『消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし』角川SSコミュニケーションズ、2010年
神野直彦『「分かち合い」の経済学』岩波書店、2010年
・宮本太郎『生活保障』岩波書店、2009年


「分かち合い」の経済学 (岩波新書)

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消費税25%で世界一幸せな国デンマークの暮らし  角川SSC新書 (角川SSC新書)

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生活保障 排除しない社会へ (岩波新書)

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*1:http://ahlaes.com/post/897

*2:期間や額については参考文献に書いてあります。ここではそういうのがあるということだけ把握していただければと思います。