証券取引に対する課税―トービン税とは何か

以前にこんな記事を書きました。


EUの金融取引税について―国境を越える資金にどう課税するか(導入)~金融のグローバル化について~ - パンダのぼやき
金融自由化―3つの要点と美人投票の論理 - パンダのぼやき
証券取引に対する課税への道筋―ミンスキー理論 - パンダのぼやき



今回は、上記記事のような金融の不安定性(金融危機をどう抑制するか)にどう対応するかというのを、証券取引に対する課税(トービン税)に絞ってまとめていきます。


トービン税とは何か


…国際的な通貨取引に課される税のこと。1981年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・トービンが提唱したため、トービン税と呼ばれています。EUの金融取引税は、広義のトービン税と言えます。


この提案に至る背景として、以下。

財政・金融政策の効果が期待できなくなってきた


変動相場制への移行によって、各国政府は国際的な資本移動に直面しました。これの意味するところは、国内の財政・金融政策では効果が期待できなくなったということです。


例えば・・・(金融政策)
国内の民間投資を促そうと考えたとします。この場合、企業が投資をしやすい(お金を借りやすくする)ように、金利を低く設定する必要があります。しかし、金融がグローバル化した状況下では、こうした対応が困難になります。なぜなら、投資家的には、金利の低い国内で資金運用するよりも、金利の高い海外で資金を運用したくなる(そのほうが利益が大きい)からです。


つまり、金利政策を実施すると資金が海外に流れてしまう(国内で借りて国外で投資する)ので、結局のところ国内には投資されず、国内の景気対策としては効果が薄くなってしまうのです。



これは財政政策の場合も同様です。国際的な資本移動の自由を前提とする「マンデル=フレミング・モデル」という標準的な国際マクロ経済モデルがあるのですが、それによると、仮に財政政策を行ったとしても、その効果は為替レートの変動によってすべて吸収され、GDPには何ら影響を与えないとされています。

ではどうするか?


そこでトービンは、解決策として2つの選択肢を挙げました。それが・・・

1、 共通通貨の創出(EUのユーロが典型)
2、 証券取引に対する課税←トービン推奨


ここでは2に焦点を当てます。トービンは証券取引に対する課税について「あまりにも効率的な国際金融市場の車輪に、いくらかの砂を撒くこと」と表現しています。これは“砂=税”ということで、税がブレーキの役割を果たすということです。

具体的には?


…国際通貨のすべての直物取引(売買契約と同時に決済が行われる取引)に対して一律税率で課税をすることです。


☆ここでのポイントは、取引における利益への課税ではなく、一回ごとの取引そのものに課税するという点です。つまり、取引回数が多いほど税負担が重くなる仕組みとなっているのです。言い換えれば、短期取引(≒投機)を繰り返すほど税負担が重くなる仕組みなのです。


つまりトービン税は、財源調達手段としてではなく、投機の抑制が主目的なのです。投機を抑制するということは、通貨危機の抑制にもつながると考えられます。これは社会政策的課税という考え方です。↓↓↓


ワーグナーの経済論②―社会政策的課税という考え方 - パンダのぼやき


トービン税は非現実的?


この構想は画期的ではありましたが、実現可能性という点では疑問視されてきました。なぜなら、1国でトービン税を導入したところで、この税を嫌って資金は他国に流れるからです。したがって、この税を効果的に実施するには世界的に一律で導入しなければなりません。しかし、それは政治的に困難が付きまといます。だから疑問視されました。


また、そもそも論として、トービン税によって投機の抑制につながるのか?という疑問もあります。これについては様々な研究がなされているようですが、見解は真二つだそうです。こうした状態では導入リスクが大きいとして、導入を見送ってきたというのが現状です。


しかしながら、リーマン・ショックという大規模な金融危機を契機に、やはりトービン税は必要ではなかろうか?という議論が広がり、EUの金融取引税につながりました。これは2013年に導入が承認されたものですので、その効果についてはこれから検証されるものと思われます。注目したいところです。



参考文献
・諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか』新潮社、2013年

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)