ワーグナーの経済論②―社会政策的課税という考え方

以前に、ワーグナーの経済論についてまとめました。


ワーグナーの経済論①―人間は自己利益を最優先する? - パンダのぼやき



簡単に復習をすると、ワーグナーの主張は、これまでの経済学の通説(自己利益を最優先するという行動動機)を批判し、人間の行動動機はもっと多様であるということです。そこで出てくるのが「利己的動機」以外の「共同的動機」と「慈善的動機」で、これを昇華させた「民間経済組織」と「共同経済組織」と「慈善経済組織」があると主張します。詳しくは上記記事で。今回はその続きです。

3つの経済組織

民間経済組織

:一言でいえば市場経済原理で動く組織。これは自らの生活欲求を満たしたいという個人の「利己的動機」に基づいたもの。個々の財・サービスから得られる便益と費用負担が釣り合うかたちとなっている。

共同経済組織

:共同欲求を満たすための組織。具体的には「国家」を想定して差し支えないと思われます。この組織では費用が市場原理とは別の方法で共同体の構成員に配分しなおされるため、個々の財・サービスから得られる便益と費用負担が必ずしも一致するものではない(イメージは所得再分配)。

慈善経済組織

道徳的に価値の高い行為の原理に基づいた組織。つまり、見返りを求めない非利己的な行動動機(慈善的動機)が、意思決定の基礎となっている。よって、共同経済組織と同様、便益と費用負担は一致しない。具体的には「NPO」などになるのでしょうか。


ワーグナーは上記3つのうち「共同経済組織」、つまり「国家」が最も重要な役割を果たすとみなしました。この「共同経済組織」は「共同的動機(=共同欲求)」によって動く組織なのですが、その「共同欲求」が生まれる要因を、以下のように説明しています。


そもそも共同欲求が生まれるのは、人間が私的な存在であると同時に社会的な存在であり、彼らが他の人々と共同生活を営んでいるという現実が存在するからである。

下記参考文献、82頁



こうしたワーグナーの理論は、市場(民間)経済と国家(共同)経済という2つの異なる原理で動く経済組織からなる「混合経済論」につながっていきます。これについては↓↓↓


財政の原則―民間との違い - パンダのぼやき


社会政策」としての租税


ワーグナーの租税論は、租税を単なる国家の財源調達手段としてだけではなく、社会政策(貧困・格差を解決する政策)を実施するための手段としても捉えたことにあります(社会政策的課税)。以前にシュタインの租税理論についてまとめましたが、シュタインは社会政策的課税までは踏み込みませんでした。というより、社会政策的課税には反対でした。


※※この記事では、イメージしやすいように、私見としてシュタインの議論は再分配に近いと書きましたが、参考文献によればシュタインは社会政策的課税には反対したようなので、ここで訂正しておきます。


ワーグナーの租税論に関する部分を引用すると、

課税の純粋に財政的な目的のほかに、社会政策領域に属する二つ目の目的を区別することができる。課税は自由競争によってもたらされた分配を修正することによって、国民所得と国富を規制する要因となる。私はこの概念を、あらゆる非難に対して強く支持する。それどころか、今日ではこの二番目の規制目的は、拡張されて個人の所得と富の利用に対する介入をも含むようになったといってよい。これは、「純粋に財政的」な概念とは異なる「社会政策的」な概念である。

下記参考文献、89-90頁。孫引きで申し訳ありません。


つまり、租税は財源調達手段としての役割がもちろんあるが、それに加えて、様々な経済問題を改善するための社会政策」という役割も担うべきだということです。言い換えれば、租税によって所得の再分配を推し進めることが可能であるという主張です。



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時代は違えど、社会問題が噴出している状況は現代でも同じなので、ワーグナーの議論を再検討及び昇華させることは一定の意義があるように思います。



参考文献
・諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか』新潮社、2013年

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)