『波のうえの魔術師』読了


読みました。


波のうえの魔術師 (文春文庫)

波のうえの魔術師 (文春文庫)


以下、感想です。

内容


時は1998年春、大学を卒業ものの就職浪人中の白戸青年は、仕送り+パチプロで何とかしのいでいました。そんなある日、小塚老人に声をかけられ、マーケットの世界にのめり込みます。老人からマーケットのイロハをイチから叩き込まれ、力をつけてきたところで預金量第3位の大手都市銀行の金をむしり取るべく、2人は壮大な「秋のディール」に挑むという物語です。

感想


この本を読んで一番思ったことは、株は不労所得なんかじゃないということです。もしかしたら「そんなの当たり前じゃないか!」と言われてしまうかもしれません。でも、株に一切手を出したことのない私からすると、株取引の仕事というのは、パソコンとにらめっこして、電話やネットで売り買いしているだけで“働いていない”のにお金が入ってくるもの(しかもその額が自分の予想を大幅に超える)だと思っていました。


というのも、意識しているつもりはないのですが、私の中に働く=労働(肉体労働)という認識が結構強いのかもしれません。普段から「マルクスの労働価値説がー、マルクス的に商品とはー」とか言っているせいなのか、“働く”と聞くと、体を使ったこと(≒労働)をイメージしがちなんですよね。視野が狭い。


しかしながら、本書を読んでいると、株取引だって立派な仕事だなと思えます。確かに肉体労働ではないけれど、頭はフルに使っていますし、扱う額が額なので、緊張感が半端じゃなく、常に精神をすり減らしているんだろうなと想像できます。本書の場合は多少法を犯しているという点でも緊張感があったのかもしれませんが^^;

小塚老人の言葉


秋のディールが終わろうとするとき、小塚老人が白戸青年に言葉を贈るのですが、それが結構刺さったので引用しておきます。

「日本人は金をうしろ暗いもの、汚いものと考える傾向がある。金を金で生むのは汗をかかない最低の仕事だと見なしている。そろそろわたしたちは次の段階にすすむ必要があるのではないだろうか」


そして金融の影響力の大きさを、数字を並べながら説明し、以下のように続きます。

「わたしたちの時代はもう坂本龍馬高杉晋作を生まないだろう。本田宗一郎松下幸之助さえ期待できないかもしれない。時代が変わったのだ。…明治の傑物どころか、昭和の勤勉な偉人さえ、新しい時代のモデルにはならない」


金はうしろ暗いもの。確かにそういう認識はあるかもしれませんね。そう認識する原因はわかりませんが、日本人がそう認識しているイメージはあります。私も株は不労所得だと思い込んでいたフシがあるので。そう考えると、小説とはいえ本書を読んで、株は不労所得だ!彼らに税金を!と安易には言えないなぁなんて考えたり。それ相応のプレッシャーもあって、不労ではないなと個人的には思いました。



そして、「時代が変わったのだ。」その通りだと思います、小塚老人。最近は金融危機に関わる部分を勉強していて、グローバルに資金が飛び交い、金融危機実体経済に大きな影響を及ぼすようになっているなぁとつくづく思うわけですが、これらとどう付き合っていくのか。自分の中でタイムリーな話題だったこともあり、妙に響きました。


小説として普通に面白かったです。株が不労所得だと思っている人は一度読んでみたほうが良いかもしれません。多少認識は変わります。ただ、多少の経済知識は必要かなと思いました。なくてももちろん読めますが、知っていたほうがリアリティを感じられるように思いました。


波のうえの魔術師 (文春文庫)

波のうえの魔術師 (文春文庫)