ワーグナーの経済論①―人間は自己利益を最優先する?


以前はヘーゲルの考え方を踏襲・昇華させたシュタインの租税論についてまとめました。


シュタインの租税理論 - パンダのぼやき



今回はシュタインの議論を引き継いだワーグナーの経済論・租税論についてまとめたいと思います。


ワーグナーの生きた時代


…政治的にも経済的にも、欧州の列強として台頭する時期。1840年代の鉄道敷設にけん引されて生じた産業革命によって、ドイツ経済は興隆しました。


⇒他方で資本主義も高度化し、景気循環や恐慌による大量の失業者、労働者の疲弊と貧困層の拡大などの社会問題も噴出
⇒その解決策として、積極的に国家介入して社会政策を実施することで所得再分配社会保障を実施することを重要視


このような立場をワーグナー国家社会主義と自称し、社会主義とは一線を画すものであった。

国家社会主義


…古典経済学の理論枠組み(アダム・スミス以来の国家の役割は最小限にという考え方)では、資本主義経済システムのもたらす貧困や格差、恐慌や景気循環には対応しきれないという主張で、これらを解決するためには国家介入が不可欠だとする立場。


こうした国家介入を根拠づける新しい経済理論を構築しようとしたのがワーグナーであり、その成果が著書『国民経済論』です。以下、その中身についてまとめていきます。


経済活動の動機は複数ある


これまでの人間の行為動機(どういう動機で行動するか)は、「欲求」(ヘーゲルの考え方)や「利害」(シュタインの考え方)が根本にあり、個人はその最大化を図るべく行動すると考えられた。つまり、個人は自己利益を最優先して行動するということです。

アダム・スミスの『国富論』がこの指摘、現代でもミクロ経済学はこのような考え方が基本的


☆しかし、ワーグナーはこの前提は一面的であると指摘した。つまり、人間の本性や行動動機はもっと多様であると指摘しました。そこで出てくるのが従来の「利己的動機」以外の「共同的動機」「慈善的動機」です。

3つの経済組織


更にワーグナーは上記3つの行為動機論を、経済組織の3つの類型に昇華させました。
…それは「民間経済」「共同経済」「慈善経済」の3つです。


ワーグナーはこれらの組み合わせによって「国民経済」が構築されていると考えました。


☆今回のポイントとしては、ワーグナーがこれまでの経済学の通説(自己利益を最優先)を批判し、人間の行動動機はもっと多様であると指摘したことです。


民間経済、共同経済、慈善経済の説明についてはまた改めてまとめます。


参考文献
・諸富徹『私たちはなぜ税金を納めるのか』新潮社、2013年

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)

私たちはなぜ税金を納めるのか: 租税の経済思想史 (新潮選書)