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『レイヤー化する世界』読了―

書評


今更感がありますが、『レイヤー化する世界』読み終わりました。



簡単に言うならば、「歴史考察から現代社会の構造を読み解いた上で、各個人が今後どのように生きていくのかを考える一つの指針となる書」といったところです。



本書はツイッター上で評判が良い感じだったので、とりあえず買ってみたという感覚でした。目次を見ると、どうやら中世の世界史あたりから振り返っているようで、私自身、普段は歴史から現代を考えよう!などと宣っている割に近代以前の歴史にはまだまだ疎く、積読状態でした。


でも、最近は中世の社会システムも少しずつ勉強して理解してきたので、このあたりが読み時だろうということで読み始めました。そして実際に読んでみると、改めて「歴史って大事だなぁ」と思わされました。先を見通すための最良の手段のような気がします。



それでは、本書の簡単な概略をまとめながら、思うところを書いていきます。


本書はまず「現代」について確認して、次に「中世」、「近代」、そして「未来」について考察していくという構成になっています。基本的に歴史の流れに沿って議論が進むので、理解が非常にスムーズです。私は先に近代以前の歴史に疎いから積読だったと書きましたが、その辺りが(もちろん他の章も)かなりやさしく説明されているので、特に専門的な歴史知識とかは必要ありません。


本書での第1のキーワードは「ウチ」と「ソト」という概念でしょう。簡単に言えば「ウチ」=先進国、「ソト」=後進国(植民地)ということです。「ウチ」がモノを大量生産すると、そのうち内需が飽和するので、今度は大量生産した余りを「ソト」に輸出します。帝国主義を考えるとわかりやすいかと思います。↓↓↓


帝国主義と現代のつながり―世界史を学ぶ意味 - パンダのぼやき


要は、近代以降は「ウチ」が豊かさを謳歌し、「ソト」がそのつけを払わされるといった構図で、境界線が割とはっきりしていたのです。


しかし、1970年代頃になるとこうした構造が息切れしてきます。更に90年代頃のIT革命が追い打ちをかけます。ここで第2のキーワード、〈場〉という概念が出てきます。〈場〉とは、IT革命によって前述のような「ウチ」と「ソト」という境界線を曖昧にする(破壊する)場所を指します。インターネットですね。インターネットという環境さえあれば、先進国や後進国といった属性(本書ではレイヤーと呼ぶ)は関係なく、誰もが同じステージに立つことができるようになったということです。世界的に平等化が進んでいるというわけです。


ただ、この平等化が日本も含めたいわゆる先進国の人々にとっては、現状良い結果をもたらしていないのです。日本の賃金低下を考えるとイメージしやすいでしょう。


更にIT革命は、あらゆる分野を変化させます。音楽、金融、自動車、教育、なんと政府や自治体まで・・・。あらゆる分野を〈場〉が呑み込んでいく時代なのです。こうした状況は、後進国の人たちにとっては、非常にありがたい、喜ばしい状況なのですが、前述したように先進国の人たちにとっては、非常につらく苦しく「感じ」ます。


「感じる」というのを強調したのには、理由があります。かつての先進国はある程度将来が想像できました。日本で言えば終身雇用慣行と年功賃金によって仕事は安定、早くに結婚して、若いうちに子ども作って家建てて、老後はこれまでの貯蓄と年金で夫婦で悠々自適の生活・・・みたいな感じで。こういうのが一種の社会標準となっていて、目指すところがある程度見えていました。


でも今は、働く人の約3分の1は非正規労働者で、自分の生活すら今後どうなるかわからず、今後どうしたら良いのかわからない状況の人も多いと思います。こういう人たちは、学校でちょっと終身雇用を耳にしたり、親の世代を見たり話を聞いたりして、いわゆる「幸福な時代」を知っています。だから今の〈場〉があらゆる分野を呑み込んでいく時代をつらく「感じて」しまうのだと思います。


じゃあどうするのか。著者のメッセージは実にシンプルです。

〈場〉と共犯し、〈場〉を利用し、〈場〉に利用されよう。


要するに流れに乗りなさい、ということです。かつての社会システムに憧れていてももうその仕組みは戻ってこないし、何より機能しない。だったら新しい波に乗っていこうぜ!そういうことだと私は受け取りました。


☆☆☆☆☆
はて、自分はどのようなレイヤーで生きていきたいのか。そんなことを考えさせられる本でした。社会科学を好きで勉強している私は、こういう時代に国はどうすべきか?国に何ができるか?なんて日々考えているわけですが、本書を読んでそういうのを考えるのすらなんだかバカバカしく思えて来ました。だって国家そのものが壊れ始めているのだから。でも、波に乗り切れない人たちも中にはいるわけで、そういう意味では国の役割もやはり重要だと今のところ私は思うので、社会科学の勉強は続けます。そして社会科学は何より面白いですしね。


不安定な時代にいろいろ不安を持っている方、「日本を取り戻す!」とかつての考え方に凝り固まっている方にオススメの本です。これからを生きる上で、何かしらのヒントになると思います。

電子書籍が安めです。