クリントンはなぜ福祉の充実で選挙に負け、福祉の削減で勝ったのか

 クリントン政権の直面した課題は、以前から続く「無保険者の増大」と「医療費の高騰」でした。これらを解決するための案として、①シングルペイヤー案②プレイ・オア・ペイ案③管理された競争の3案がありました。こうした論争の中で、①~③の折衷案となりました。しかし、③を主張するニューデモクラッツは「政府規制・補助金・雇用主への義務付け」を嫌い、純粋な「管理された競争」を盛り込む法案を提出しました。他方①を主張するリベラル派は、「公的皆保険の実現」に固執し、両者の民主党内の分裂を修正できませんでした。

 

 一方の共和党は、雇用主提供型医療保険を批判し、個人の選択による民間保険の競争拡充を求めました。しかし、「クリントンを利するいかなる法案をも拒否する」という方針によって共和党は一定のまとまりをもちました。また、アメリカ労働総同盟・産別会議や全米自営業者連合などもクリントンとの対決姿勢を強めていたので、合意を形成することが難しかった。これらを背景に、民主党94中間選挙にて歴史的大敗を喫したのです。

 

 

 その一方で96年の大統領選挙ではクリントンが圧勝しました。その背景としては、共和党提出の法案とはいえ、州知事時代に成功した経験から、就労促進型福祉の導入を進め、福祉予算の削減に着手したことが挙げられます。本来であれば、ポール・ピアソンが指摘するように福祉の削減は選挙の洗礼を受けるはずですが、アメリカにおいてはAFDCという福祉制度に対する不満が大きかったために、福祉の削減でも圧勝できました。AFDCとは、事情はどうであれ、貧困母子家庭は扶助する義務があるというものなので、納税者が見返りもなく少数の貧困母子家庭を扶助する構図です。これは「勤労の倫理に反する」「拠出者と受給者の不一致」など中間層の理解が得られない制度だったので、ここに切り込むことで中間層を取り込み、選挙で大勝を果たしたのです。

 

ポリティクス・イン・タイム―歴史・制度・社会分析 (ポリティカル・サイエンス・クラシックス 5)

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