税制の機能

 税制の機能は主に3つあります。①公共サービスのための財源調達②所得の再分配③経済の安定化・景気調節機能です。①については、誰が、どの程度、どのように負担するかが重要となります。この点につき、利益説と能力説という二つの考え方があります。前者は、国民が受ける利益に応じて租税を負担するという考え方です。それに対し、後者は、各人の能力に応じて租税を負担するという考え方です。②は、所得税などの累進構造や社会保障給付を通じて、高所得者から低所得者へ富を分配することです。③の経済の安定化とは、所得税や法人税の税収は、好況期に増加し、不況期に減少します。すなわち、好況期に個人や法人の需要を抑制し、逆に不況期は需要の抑制を緩和する機能があるので、経済安定化に役立つのです。一方の景気調節機能とは、裁量的な財政政策によって景気を調節することです。景気過熱期には増税等でそれ以上の過熱を抑え、逆に不況期には減税等で景気刺激策を行います。こうした政策が景気調節に役立つと言われています。

 

・所得税の性質と問題点

所得税には、所得の再分配機能があると言われます。税率を累進構造にする、個人の事情に応じて各種控除を設けるといった施策によって、所得の多い人からより多くの税負担を求め、所得の少ない人からはそれに応じた税負担を求めます。こうした点から、応能負担原則がふさわしいと言われています。また、前項で指摘したように、景気変動に伴う税収の変動が経済自動安定化機能を果たし、景気刺激策によって景気調節機能も果たすと言われています。

 一方の問題点は、累進構造による負担増が勤労意欲や事業意欲を阻害する恐れがあることです。また、所得の正確な把握が困難だという、いわゆる「クロヨン」問題や、各種控除制度があり、税制が複雑になりがちだという問題もあります。こうした背景から、所得への課税よりも消費への課税の方が公平性や中立性という点から見て優れているという考え方が台頭しました。

 

・消費税の性質と問題点

 消費税は、非課税取引を除いて国内すべての取引を課税対象にしています。非課税取引以外は一律5%で課税されるので、シンプルな税制と言われています。また、課税ベースが広いので、中立的かつ公平な税制とも言われています。更に所得税や法人税と異なり、景気に左右されにくいので、安定的な税収が期待されます。

 一方の問題点は、所得水準の低い人ほど所得に占める消費税の負担割合は高くなる逆進性があります。逆進性対策としてよく言われるのが、生活必需品に対する軽減税率です。しかし、軽減税率にも問題があります。第一に、必需品なのか贅沢品なのかの線引きが極めて難しいという点です。第二に、非課税とした場合にも消費税分が全くなくなるわけではないという点です。仮に食料品を非課税とした場合、ある業者が食料品を売っても消費税はかからない。しかし、食料品を作るには他にも様々なものを仕入れており、中には食料品以外のものもある。それらを仕入れる時の消費税は控除できないので、業者はその分を上乗せすることになります。

また、消費税は国税の税目の中で最も滞納が多い税金だという点も問題です。国税庁HP『平成20年度租税滞納状況について』によると、全税目での新規発生滞納額は8988億円で、そのうち消費税は、4118億円です。実に半分近くの滞納が消費税なのです。

 

・法人税の性質と問題点

 法人税は、所得税と同様に「所得」を課税対象としています。この点から、経済自動安定化機能や景気調節機能があると言われます。

 一方の問題点は第一に、日本について言えば大半の会社が赤字のために法人税を負担していないという点である。三木氏によると、「中小企業の七割が赤字、資本金一億円以上の大企業でも五割が赤字になっている」(62)という。また、法人税収は法人のうちの少数によって負担されていて、法人の中の0.03%程度しかいない資本金100億円以上の企業が全体の三分の一を負担しています。更に、法人の中で0.1%の資本金1億円以上の法人も加えると、これらの法人だけで合わせて法人税収の6割を負担していると指摘されています。こうした面から見れば、負担が偏って見えますが、大企業がそれだけ多くの所得を得ているとも言えます。

 第二に、法人税はそもそも誰が負担しているのかが分からないという点です。ここには法人擬制説と法人実在説があります。前者は、法人とは仮の姿で、法人の所得は最終的には個人の所得になるという説です。前者をとれば、法人税は所得税の前取りとなるので、二重課税の調整が必要になります。一方の後者は、会社は個人株主からも離れた独自の存在で、会社の所得は会社自体の所得であるという考え方です。こうした対立の中で、法人税を負担しているのが誰かははっきりしないので廃止すべきだという意見もあります。一方で廃止することは経済社会に多大な影響を及ぼすので不可能だという意見もあります。

 

 長々と日本における税制の基本的なことを述べてきましたが、ここまでで言えるのは、それぞれの税にはメリットもあればデメリットもあるという点です。この点から、これらを適切なバランスで組み合わせることでより最適な経済社会を目指すとする、タックス・ミックスが重要であると言えます。これに関しては政治過程によって国民自身が決めるべきことです。

 

参考文献

斎藤貴男『消費税のカラクリ』講談社、2010

・三木義一『日本の税金 新版』岩波書店2012

・森信茂樹『日本の税制 何が問題か』岩波書店2010

 

国税庁HP『平成20年度租税滞納状況について 新規発生滞納額の推移』http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2009/sozei_taino/index.htm (閲覧日:2013111)

 

日本の税金 新版 (岩波新書)

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