政治・経済・社会・歴史

なぜ、アダム・スミスは消費課税に反対したのか

近年の日本の消費税引き上げ論争の参考になるかもしれませんので、まとめてみます。 ・スミスは消費課税反対論者 大まかな主張の要約: ①:個人の支払い能力に応じた課税を実現するためには、本来は所有または所得に応じて課税されるべき。しかし、消費課税…

土建国家の合理性―かつての公共事業は必要だった

土建国家とは、経済成長を前提としつつ、減税によって中間層を宥和するとともに貯蓄を増大させ、その貯蓄を財源にした財政投融資を活用して公共事業を行うことで地方への利益分配も可能にしたシステムと言えます。土建国家を考える上でのキーワードは、①公共…

クリントンはなぜ福祉の充実で選挙に負け、福祉の削減で勝ったのか

クリントン政権の直面した課題は、以前から続く「無保険者の増大」と「医療費の高騰」でした。これらを解決するための案として、①シングルペイヤー案②プレイ・オア・ペイ案③管理された競争の3案がありました。こうした論争の中で、①~③の折衷案となりました…

なぜトルーマン、クリントンは皆保険に失敗し、オバマは成功したのか

トルーマン政権時の国民皆保険の導入に失敗した要因としては、アメリカ医師会とウィティカー&バクスター社による公的健康保険反対キャンペーンが挙げられます。また、公的保険反対にとどまらず、民間保険拡大キャンペーンも行いました。更に労働組合すらも…

選挙制度について②

・J.S.ミルの比例代表制論 「代議制統治論」(1861):当時のイギリスが多数代表制で、大政党の候補者ばかりが当選していた。これを少数派の「事実上の選挙権の剥奪」として批判 ⇒「数に比例した代表」こそが「民主主義の第一の原則」であるべきと主張 そこ…

選挙制度について①

・選挙制度の「利害得失」論 選挙制度の議論においては、それぞれの制度に一長一短があり、ベストなものはないという議論になりがちです。 例)小選挙区制:政権が安定しやすい、死票が多いなど 比例代表制:死票が少ない、政権が不安定など ⇒だから両者を組…

アダム・スミスの生きた時代―なぜ分業を提唱したのか

前回はアダム・スミスが『社会的分業』を提唱したという記事を書きました。今回は、なぜスミスは分業を提唱したのか、について書きたいと思います。 ○スミスの生きた時代 ・18C、イギリス:『重商主義』が基本的な経済上の考え方であった。 ※重商主義…政府が…

社会的分業と市場の成立

経済学とは:みんなが豊かになるためにはどうすべきかを考える学問 その創始者とも言えるのがアダム・スミスで、みんなが豊かになるために分業を唱える ・未開社会から分業社会へ 未開社会:採集や漁労などで生活をし、余剰(蓄え)がない状態 →イメージとして…

税制の機能

税制の機能は主に3つあります。①公共サービスのための財源調達②所得の再分配③経済の安定化・景気調節機能です。①については、誰が、どの程度、どのように負担するかが重要となります。この点につき、利益説と能力説という二つの考え方があります。前者は、国…

スウェーデンモデルの変容

スウェーデンモデルとは、1951-76年のレーン・メイドナー・モデルに代表される、生産性の低い企業や産業部門を排除し、労働力を職業訓練により生産性の高い分野に移動させ、低インフレ率を維持しつつ完全雇用を実現する政策体系です。このような政策が体系化…

北欧諸国の財政システム―目標と制度設計

・財政健全化を実現している3つの理由 1)適切なマクロ経済運営や成長戦略による高い成長率 2)歳入基盤がしっかりしている 3)中期的タームで歳出をコントロールする法的枠組み 1) 企業の国際競争力を高め、高い経済成長を実現することが高福祉システムを維持…

スウェーデン―労働市場の特徴

特徴: ① 就労を促す社会的規範・社会保障制度 ② 高い労働組合の組織率を背景とした労使協約重視の労使関係 ③ 労働移動を促進する社会合意・仕組みの存在 ①:アルベツリーニエン(就労原則) ⇒社会保障制度の受益者に対して、必要な職業訓練や人材投資によって…

福祉国家の形成をめぐる諸理論

福祉国家の形成をめぐる議論として、①ウィレンスキーによる「社会経済視角」②コルピらによる「権力資源の動員」③エスピン・アンデルセンによる「連合の理論」が挙げられます。ウィレンスキーは社会経済視角から、社会保障支出の対GNP比が増大する要因を検討…

財政の機能と役割

現代財政の機能は、①資源配分機能②所得再分配機能③経済安定機能の三つに分けられます。①は経済社会の資源をどの程度まで公共部門に振り向け、また公共部門のなかでどのような用途に効率的に配分するかという機能です。民間部門における経済主体の活動には、…

財政民主主義

財政とは、国や地方自治体などの公共部門の経済活動のことであり、民間部門の財政とは区別されます。しかし、近代市民国家が形成される以前の絶対王政国家などでは、公的な財政と民間金融は一体でした。国王は公債を発行して民間金融業者から借金をし、政治…

財政の原則―民間との違い

財政とは、国や地方自治体などの公共部門における経済活動のことです。民間部門の企業や家計と同じように、財源を調達し、それをもとに投融資を行い、財産を所有し管理するというような経済活動を行っています。 民間部門の企業や家計との違いを指摘するとす…

北欧と日本の違い―国民負担率から見る社会システム

北欧の国民負担率についてまとめてみました。 国民負担率とは… 税と地方税を合わせた租税額の国民所得に対する負担率(租税負担率)と、年金など社会保険料の国民に対する負担率(社会保障負担率)を合計したもので、最終的に国民がどの程度負担しているのかを見…

北欧の失業給付

北欧の失業給付についてまとめてみました。 少し古いので、新しい制度になっていたら教えてください。 ○スウェーデン(2005) ・給付額は失業前所得の約80%、給付期間は約14か月 ○デンマーク ・給付額は失業前所得の約90%、給付期間は最大4年間 ※鈴木優美…

戦後から現在までの概観と時期区分―財政赤字の第2次累増期(1990-現在まで)

5-1 バブル崩壊から小泉政権まで 90年度当初予算で赤字国債依存度がゼロになって以来、これは93年まで継続しましたが、バブル崩壊後の長引く景気低迷を打開するために行われた大規模な財政出動などを背景に、94年以降は再び赤字国債を抱えることになります。…

戦後から現在までの概観と時期区分―財政再建期(1980-1990)

4-1臨調の発足とシーリング方式 一般消費税の導入に失敗したことを受け、政府は財政再建を増税以外の道に求めました。その第1が歳出削減であり、第2が不公平税制の是正です。とりわけ歳出削減に重点を置いた方向で、本格的な行政改革をスタートしました。 80…

戦後から現在までの概観と時期区分―財政赤字の第1次累増期(1975-1980)

3-1財政赤字累増の背景と財政再建のはじまり 75年から80年は財政赤字の累増期です。財政赤字の本格的な累増は、75年度補正予算から始まりました。第1次石油ショック以降の景気低迷により、赤字公債の発行が避けられなくなり、これを皮切りに公債依存度も急上…

戦後から現在までの概観と時期区分―高度成長期(1955-1975)

2-1均衡財政期 50年代中頃に入ると、本格的な経済成長の局面を迎えることとなりました。この経済成長は他の先進諸国に類をみないほどの成長率だったため、一般に「高度成長」と呼ばれます。高度成長がもたらされた要因としては、第1に日本経済の供給・需要の…

戦後から現在までの概観と時期区分―戦後復興期(1945-1955)

1、混乱期 1945年の終戦以降の日本経済は、戦後復興の時代でした。戦後直後の日本経済はまさに壊滅的と言うべき状況で、戦勝国からの大量の援助物資があったものの、生産財や消費物資は著しく不足していました。また、戦時中の臨時軍事費特別会計の支出が戦…

デンマークの財政・税制・国家予算

第一章 デンマークの高負担の実情―国民総背番号制 1、 個人登録番号制度 ・国民ひとり一人に「個人登録番号(CPR)」を付与 ⇒この番号がないと日常生活すら営むことができない Ex,口座開設、就職、車の運転など ※日本:健康保険、年金、運転免許証など、一人の…